上の段にあるように、ノコギリクワガタには体格の大小があります。しかしよく見ると形まで異なっています。下の段では体長をあわせて拡大縮小してみました。大きい個体は大顎を発達させ、小さい個体は翅を発達させていることが見て取れます。体格によって発達させる部位が異なるのはなぜでしょうか。
生物の形や性質が遺伝子によってすべて決まると思い込んでいませんか?実はそんなことはありません。生物は環境を敏感に察知し、それによっても形や性質を変化させます。
ノコギリクワガタのオスは、幼虫時代にどれだけエサを食べられたかによって成虫の体つきを変化させます。エサが多ければ、多くの栄養を大あごに使って大顎を大きくします。これによって、オス同士のケンカに勝ちやすくなり、メスを獲得できます。
ではエサが少なかったら喧嘩に勝てずメスと結ばれなくなってしまうのでしょうか。いいえ、餌が少ない場合は体は小柄なままにして、翅を大きくするように栄養を使います。これによって、移動しやすくなり、あちこちでメスを探して喧嘩相手がいないスキを狙ってメスと結ばれます。
このように、成長中にさらされた環境等によって成長後の姿や機能を変えるような性質を、表現型可塑性(ひょうげんがたかそせい)といいます。生物には与えられた環境のなかで上手くやっていこうとする能力が備わっているのです。